テレビCMの効果測定で最初につまずくのは、クリックという手がかりがないことです。Web広告のようにクリック数やコンバージョン計測タグを起点にできないため、視聴率やGRP(延べ視聴率)と売上の動きを間接的に結びつける必要があります。結論から言うと、テレビCMの効果測定は全国ネットCMかスポットCM(地域限定放送)かで適した手法が変わり、全国ネットなら複数チャネルを横断して推定するMMM、スポットCMなら放送エリアと非放送エリアを比べる地域比較(DiD)が候補になります。この記事では、この2つの手法をテレビCMという媒体に絞って使い分ける考え方と、CM特有の落とし穴を整理します。
なぜテレビCMの効果はクリックで測れないのか
テレビCMを見た人がその場でスマートフォンを取り出して検索したり、数日後に来店したりすることはありますが、どの視聴が成果につながったかをログとして追跡する手段がありません。広告管理画面の「クリック経由コンバージョン」のような直接の対応表を作れないため、テレビCMの効果測定は「CMを多く流した期間・エリアで、CMがなかった場合と比べて成果がどれだけ増えたか」を統計的に推定するアプローチをとります。この考え方自体は、広告全般の増分効果(インクリメンタリティ)の話とも重なります。詳しくはインクリメンタリティとはで扱っています。
全国ネットCMとスポットCMで測り方が変わる
テレビCMには、全国系列で一斉に流す全国ネットCMと、特定の放送局・エリアだけに流すスポットCMがあります。この違いが、使える手法をそのまま左右します。
| 種類 | 放送エリア | 対照エリアの有無 | 向いている手法 |
|---|---|---|---|
| 全国ネットCM | 全国一斉 | 作れない(比較対象がない) | MMM |
| スポットCM | 特定の放送局・地域 | 未放送エリアを対照にできる | 地域比較(DiD) |
全国ネットCMは日本全国でほぼ同時に流れるため、「CMを流さなかった地域」を作れません。この場合は個別施策として切り出さず、日次・週次の売上と広告費の集計データから複数チャネルを横断して貢献度を推定するMMMの枠組みに含めるのが現実的です。仕組みはMMMとはで解説しています。
一方スポットCMは、放送しているエリアと放送していないエリアが最初から分かれています。人口規模や過去の売上推移が似ている非放送エリアを対照に選べれば、実施エリアと対照エリアの施策前後の差を比べる地域比較(差分の差分法)が使えます。考え方は差分の差分法とはにまとめています。
方法1: MMMで全国ネットCMを予算配分の一部として見る
全国ネットCMは単独では検証しにくい分、他のオンライン施策と同じモデルに含めてチャネル横断の予算配分という文脈で扱うのが向いています。統計じょうずのMMMクイック分析は、週次の売上データとチャネル別の広告費(テレビCMの出稿金額やGRPも1チャネルとして入力可能)があれば、52期間(約1年分)から試算できます。テレビCMをMMMに含めるときは、次の2点を確認してください。
- 出稿データの単位をそろえる:GRP(延べ視聴率)と出稿金額のどちらを使うかで、飽和カーブの読み方が変わります。局・時間帯が変わっても意味が揃う単位を選びます。
- 他の施策と同時に動かしていないか確認する:セール期にテレビCMとWeb広告を同時に増やしていると、どちらの効果か切り分けにくくなります(多重共線性)。MMMと多重共線性で対処法を扱っています。
方法2: 地域比較(DiD)でスポットCMを単体検証する
スポットCMのように放送エリアが限定される場合は、統計じょうずの地域比較(DiD)で実施エリアと対照エリアの売上を比較できます。手順の骨格は次のとおりです。
- 放送エリアと、人口規模・業態構成が近い非放送エリアを1つ以上選ぶ。
- 放送開始前の一定期間、両エリアの売上が同じような動き方をしていたか確認する(平行トレンドの仮定)。
- 放送開始後の実施エリアの伸びから、対照エリアの伸びを差し引いた分を効果として見る。
この方法の弱点は、似た対照エリアが見つからない場合に成立しないことです。都市部のスポットCMで、地方の人口規模がまったく異なるエリアしか対照に選べない場合は、地域比較よりMMMの枠組みで扱ったほうが無理がありません。
テレビCM特有の落とし穴
テレビCMをMMM・地域比較のどちらで扱う場合も、次の点は見落としやすいので確認しておきます。
- 残存効果(アドストック)が長い:CMを見てから検討・来店までに数日〜数週間のタイムラグが生じやすく、目安として2〜4週間程度の持ち越しを想定するケースがあります。短すぎる減衰を仮定すると、実際は効いているのに過小評価されます。仕組みはアドストックとはで扱っています。
- 飽和が起きやすい:エリア内で到達できる視聴者数には上限があるため、出稿量を増やしても一定水準からは効果が伸びにくくなります。飽和の考え方は広告飽和曲線とはにまとめています。
- 放送エリアと行政区分が一致しない:放送局のカバーエリアは都道府県境と完全には一致しないため、対照エリアを選ぶときは視聴可能エリアそのものを基準に区切る必要があります。
- CMとキャンペーンが重なりやすい:テレビCMの放送タイミングは、値下げやセールと合わせて設計されることが多く、効果を切り分けるにはCMの実施期間と他施策の実施期間を別々に記録しておくことが実務上重要です。
よくある質問
Q. テレビCMの効果を、A/Bテストで測ることはできますか。 A. 個人単位でランダムに配信の有無を分けられないため、通常のA/Bテストは使えません。エリア単位で分けられるスポットCMであれば地域比較(DiD)、分けられない全国ネットCMであればMMMが代わりの選択肢になります。
Q. GRPと出稿金額、どちらをMMMの入力に使うべきですか。 A. どちらでも分析はできますが、局・時間帯・年度をまたいでも意味が変わらない単位を選ぶことが重要です。出稿金額は単価改定の影響を受けやすく、GRPは視聴率調査の対象エリアに左右される点に注意してください。
Q. スポットCMで対照エリアが1つしか用意できない場合、地域比較は成立しますか。 A. 成立しないわけではありませんが、対照エリア1つだけだと、その地域固有の一時的な変動を施策効果と取り違えるリスクが上がります。候補となる複数エリアの施策前トレンドを比較し、最も近い動きをしているエリアを選ぶことをおすすめします。
Q. テレビCMの効果測定にはどの程度のデータ期間が必要ですか。 A. MMMで扱う場合は週次データで52期間(約1年分)が目安です。地域比較の場合は、放送開始前に平行トレンドを確認できるだけの期間(数か月程度)と、放送後に効果が定着するまでの期間の両方を確保してください。
テレビCMは「クリックがない」という一点だけで身構えられがちですが、全国ネットかスポットかを見分ければ、MMMと地域比較のどちらで扱うべきかは機械的に絞り込めます。まずは自分たちのCMがどちらの放送形態に近いかを整理したうえで、統計じょうずのMMMクイック分析または地域比較で試算してみてください。