限界ROIとは、いま投じている広告費に、さらに1円を上乗せしたときに、その1円がどれだけの効果を生むかを表す指標です。これに対して平均ROIは、これまでに投じた広告費全体に対する効果の比率です。同じ媒体でも、この2つの数字は一致しないことが多く、予算を増やすか減らすかを決める場面で見るべきは平均ではなく限界のほうです。

平均ROIと限界ROIは何が違うのか

平均ROIは「投じた費用全体」と「得られた効果全体」の比率です。たとえば広告費100万円で300万円の売上貢献があれば、平均ROIは3.0倍になります。

一方、限界ROIは「もう1円増やしたときに、その1円がどれだけ効果を生むか」を見ます。広告は増やすほど同じ相手に何度も届くようになり、1円あたりの効果は徐々に小さくなっていきます。この現象を飽和と呼びます。飽和が進んだ媒体では、平均ROIはまだ高く見えても、限界ROIはすでに低いということが起こります。

次の表は、ある媒体の広告費を段階的に増やしたときの、平均ROIと限界ROIの動きを示した例です。

広告費 累計売上貢献 平均ROI 直前区間の限界ROI
100万円 300万円 3.0倍
200万円 500万円 2.5倍 2.0倍
300万円 620万円 2.1倍 1.2倍
400万円 680万円 1.7倍 0.6倍

広告費を300万円から400万円へ増やした区間では、平均ROIはまだ1.7倍と黒字に見えますが、その区間だけを取り出した限界ROIは0.6倍しかありません。追加した100万円は60万円しか効果を生んでいないことになります。平均だけを見ていると、この時点で予算を増やすべきかどうかを見誤ります。

なぜ平均ROIだけで判断すると間違えるのか

平均ROIは、これまでの投資全体の効率を振り返るには適した指標です。しかし「次の1円をどこに使うか」という予算配分の判断には向きません。

理由は、平均ROIには過去の「効率が良かった時期」の効果が混ざっているためです。ある媒体を早い段階から投入していれば、その頃の高い効果が平均を押し上げ続け、直近ではすでに飽和していても平均ROIは高いまま見えます。逆に、まだ投入量が少なく飽和していない媒体は、たまたま初期の変動が大きいと平均ROIが低く出ることもあります。

予算配分の判断で本来知りたいのは「いまの水準からもう少し増やしたら、あるいは減らしたら、効果はどう動くか」という限界の情報です。ここを混同すると、すでに飽和している媒体にさらに予算を積み増し、逆に伸びしろのある媒体を絞ってしまうという配分の誤りが起きやすくなります。

複数の媒体を比べて予算を動かす

限界ROIの実務での使いどころは、単独の媒体だけを見るより、複数の媒体を並べて比較するときにはっきりします。

たとえば、検索広告の限界ROIが1.8倍、ディスプレイ広告の限界ROIが0.7倍だったとします。広告費全体をもう少し増やせる状況であれば、伸びしろの大きい検索広告に厚く配分するのが合理的です。逆に、広告費全体を減らす必要がある局面では、限界ROIが低いディスプレイ広告から先に削るほうが、全体への影響を小さく抑えられます。

ここで注意したいのは、限界ROIの差がそのまま「配分をすべて入れ替えるべきだ」という結論にはならない点です。検索広告に極端に予算を寄せると、その検索広告自体でも飽和が早く進み、限界ROIはすぐに下がっていきます。配分の移動は少しずつ行い、そのつど実際の反応を確認しながら調整するほうが安全です。

限界ROIをどう推定するか

限界ROIを手計算で正確に出すのは簡単ではありません。飽和のかかり方は媒体ごとに違い、広告の効果は投じた週だけでなく翌週以降にも残るためです(残存効果)。この2つを織り込んだ反応曲線を推定して、初めて「いまの水準での傾き」として限界ROIが計算できます。

統計じょうずのMMMクイック分析では、媒体ごとの残存効果と飽和の形をデータから推定し、現在の広告費水準における限界ROIを算出します。媒体を横断して限界ROIを並べれば、どの媒体を増やすと効果が伸びやすく、どの媒体がすでに頭打ちに近いかが見えます。

飽和のかかり方そのものについては、限界ROIと対になる飽和曲線の記事でも詳しく扱っています。

限界ROIを使うときの注意点

限界ROIを予算配分の根拠にするときは、次の点に注意してください。

限界ROIが高いという理由だけで一度に大きく予算を動かすのではなく、小さく動かして実際の結果を確かめながら配分を調整するのが安全な進め方です。

よくある質問

Q. 限界ROIが平均ROIより高くなることはありますか。 あります。まだ投入量が少なく飽和していない媒体では、直近で増やした分の効果のほうが過去の平均より高く出ることがあります。この場合はその媒体への投資を増やす余地があると読めます。

Q. 限界ROIはどのくらいの頻度で見直すべきですか。 広告費の水準や競合の出稿状況が大きく変わったタイミングでは見直しが必要です。半年から1年に一度は、直近のデータを使って再推定することを目安にしてください。

Q. 媒体をまったく使っていない状態からでも限界ROIは分かりますか。 分かりません。限界ROIは反応曲線上の傾きなので、その媒体にある程度の広告費を投じた実績データが必要です。未投入の媒体については、小さな金額で試してデータを蓄積するところから始めます。

Q. すべての媒体で限界ROIが低くなってしまったらどうすればよいですか。 配分を組み替えるだけでは大きな改善は見込みにくい状態です。既存の枠の中で予算を動かすより、新しい媒体やクリエイティブを試す、ターゲティングを見直すといった、反応曲線そのものを動かす打ち手を検討する段階に入っています。

Q. 入力したデータはどこかに送信されますか。 統計じょうずの計算はブラウザ内で完結し、入力したCSVはサーバーへ送信も保存もしません。