MMM(マーケティングミックスモデリング)は、週次で組めるならその方がよいというのが基本的な考え方です。理由は単純で、月次にまとめると1年分のデータが12点にしか分解されず、広告の残存効果(アドストック)や季節性を捉えるための情報量が大きく減ってしまうためです。ただし、月次でも一定の判断には使えますし、日次データを手作業で週次に集約する過程には落とし穴もあります。この記事では、粒度によって何が変わるのか、どちらを選ぶべきか、そして粒度の異なるデータをどう合わせるかを整理します。
粒度が変わると何が変わるのか
MMMがモデルに使う情報量は、期間の長さそのものではなく観測点の数で決まります。1年分のデータでも、週次なら52点、月次なら12点しかありません。広告費と売上の関係を推定するには、この点の数だけ「増やした・減らした」という変化のパターンが必要になるため、月次では変化のパターンを読み取る手がかりが週次よりずっと少なくなります。
もう一つの違いが、広告の効果が消えていく速さ(残存効果・アドストック)の分解能です。テレビCMやSNS広告の効果は数日から数週間かけて徐々に減衰しますが、月次データではこの減衰の形が1つの月にまとめて均されてしまい、「効果が何週間くらい残るか」を推定する材料がほとんど残りません。
どちらを選ぶべきか
| 観点 | 週次が向く場面 | 月次で足りる場面 |
|---|---|---|
| 施策の入れ替わり | 媒体や出稿額を月内でも頻繁に動かしている | 月単位でしか予算配分を変えていない |
| 残存効果の推定 | 週単位の減衰まで見たい | 媒体ごとの粗い貢献度の当たりだけでよい |
| データの出どころ | Web広告の配信ログなど週次以下の粒度が取れる | 会計の締めに合わせた月次売上しか持っていない |
| 必要な期間 | 週次52週間(最低ライン)〜104週間(推奨) | 月次36か月(3年)程度を目安に |
必要な期間そのものについては、統計じょうずのMMMクイック分析が週次52週間から実行できる設計になっている理由も含めて、データ期間を扱った別記事で詳しく触れています。この記事では期間の長さではなく、週次・月次という単位の選び方に絞って考えます。
日次データを週次・月次に集約するときの注意
多くの現場では、広告配信ログは日次で残っていて、それを週次や月次にまとめてMMMに入力します。この集約作業には見落としやすい注意点が2つあります。
- 曜日区切りをそろえる。週の始まりを月曜にするか日曜にするかで、キャンペーンの開始日が週の前半か後半かの扱いが変わります。媒体ごとに集計元がまちまちだと、同じ週のはずなのに実は1〜2日ずれているということが起こります。
- 合計するか平均するかを指標ごとに決める。広告費やコンバージョン数は週内の合計で集約しますが、単価や比率の指標をそのまま平均すると、日ごとの出稿量の重みが無視され、実際の傾向とずれた値になります。
これらのずれは1回の分析結果を大きく壊すほどではないことが多いものの、複数の媒体データを統合するときに媒体間で集計方法が揃っていないと、実際には無い相関や無関係が見えてしまう原因になります。
粒度が異なるデータを組み合わせる場合
広告費は週次で取れるが、売上や会計データは月次締めしか無いというケースは珍しくありません。この場合、選択肢は基本的に2つです。
- 売上側を月次のまま使い、広告費側を月次に集約する。情報量は落ちますが、集計方法の不一致による誤差は避けられます。もっとも単純で、まず試すべき方法です。
- 売上側を週次に分割して推定する。営業日数や過去の週内配分パターンから按分する方法ですが、按分の仮定自体が誤差を生むため、按分の根拠が薄いまま週次化すると、粒度を上げたはずが精度を下げる結果になりかねません。
どちらを選ぶ場合も、粒度をそろえた後のデータで統計じょうずのMMMクイック分析にアップロードすると、期間や欠損に関する警告が表示されるため、按分の妥当性を検討する前段の点検として使えます。
途中で粒度を変えるときの注意
分析を進める中で「月次で試したが情報量が足りないので週次に切り替えたい」という判断になることもあります。この場合、過去の月次データをそのまま週次相当に均等分割するのは避けたほうがよいでしょう。実際には週によって出稿額や売上に偏りがあるため、均等分割は存在しない変化パターンを人工的に作り出すことになり、モデルが誤った関係を学習する原因になります。粒度を変えるなら、変更後の粒度で新たに観測されたデータから積み上げていくのが安全です。
よくある質問
Q. 週次と月次で同じ広告費データを分析すると、結論は変わりますか。 変わる可能性があります。月次では媒体間の相関が強く出やすく、週次では見えていた入れ替わりのパターンが月内でならされて消えることがあります。両方が使える場合は、週次の結果を主として、月次は粗い傾向の確認に使う位置づけにするとよいでしょう。
Q. 週次データが半年分しかない場合は、月次にまとめ直した方がよいですか。 まとめ直しても観測点はさらに減るため、基本的には得策ではありません。半年分の週次データは、MMMの実行条件(週次52週間)にはまだ届いていないため、蓄積を待つか、施策の前後比較のような少ないデータでも判断できる手法を組み合わせる方が現実的です。
Q. 日次データが手元にあるなら、集約せずそのままMMMに使った方がよいですか。 必ずしもそうとは言えません。日次のままだと観測点は増えますが、曜日ごとの購買行動の癖(週末に売上が伸びる、月曜は少ないなど)がそのままノイズとして残り、広告効果と混ざって推定が不安定になりやすくなります。週次にまとめると、この曜日の癖が1週間の中でならされるため、広告効果を読み取りやすくなる場合が多いです。日次のまま使うのは、曜日の癖を別の変数として明示的にモデルへ入れられる場合に向いています。
MMMの粒度は、観測点の数と残存効果の分解能を左右する選択です。データが取れるなら週次を基本とし、月次しかない場合はその制約を踏まえた粗い判断にとどめる、という前提を持って進めるとよいでしょう。粒度をそろえたデータがまとまったら、統計じょうずのMMMクイック分析で実際の警告表示を確かめながら、次の一歩を判断してください。